Beranda / ミステリー / 失われた二つの旋律 / 告げられなかった別れ ①

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告げられなかった別れ ①

Penulis: 秋月 友希
last update Terakhir Diperbarui: 2025-09-10 10:36:46

 店を出て美咲と別れると、リサは自宅に戻って、すぐにパソコンを立ち上げた。

 部屋のレイアウトはシンプルにしてあり、整然としたデスクの上にはノートパソコン、その隣に数冊の参考書と手帳だけが置かれてある。

「しばらく休息できると思ったんだけどな」

 リサは、ある都市でフリージャーナリストとして働いていた。しかし家庭の事情で、この町に戻ることになったのだ。何の因果か地元のトラブルに首を突っ込むことになるとは思いもしなかったが……。

 何もすることがないよりはましだろうと割り切るしかない。

 美咲には悪いが、今回のエミリアの失踪は、よくある田舎の失踪だ。大方、喧嘩別れでもしたのだろう。美咲が言っていたように山で目撃したあの男は確かに変わった人物かもしれない。しかし、それだけで犯人扱いをするのは幾ら何でも無理がある。

 エミリアに思い入れがあるから仕方がないとはいえ、美咲は少々、冷静さを欠いているところがある。だけど、エミリアを知らない私なら冷静な判断を下すことができる。私には何のバイアスも掛かっていない。

 そもそも、どうしてエミリアはあの山に行ったのか。まずはここから探っていかなければならない。

 町を離れる前に、もう一度、あの山の景色が見たかった。とするのも良いが、目撃情報は日が暮れてからだ。幾ら日本が安全な国だからと言っても、そのような時間にまで若い女性が一人で山に居続けるだろうか。普通は景色を楽しんだ後に家に帰るのではないか。

 その時間まで山にいた理由は何だろう……。

──誰かと落ち合っていた──

 もしそうならば、その人物は男性……。女性なら、そのような場所では会うことはない。そして、恐らくは知人。顔見知りであるはずだ。

 今のところ、それに該当するのは、いつもエミリアと一緒に演奏をしていたピアニストのアレックスだ。

「アレックスか……」

 だけど、アレックスと会っていたならば、アレックスも目撃されていないとおかしい。

 他に引っ掛かるのは、『誰にも何も告げずに姿を消した』という点だ。普通なら仲の良かった人に何か一言くらいは告げるはず。

 エミリアとアレックスとの間で何かトラブルが起きたのだろうか……。

 もし、そうならばアレックスに何も言わずに町を出て行ったことの説明はつく。

 しかし……

 これだけでは他の友人たちに何も告げずに町を出た理由までは説明がつ
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  • 失われた二つの旋律   共鳴する孤独 ①

    「エミリアの部屋を、見せてほしいの」 美咲の申し出に、アレックスは一瞬だけ視線を泳がせ、唇をかみしめた。遠くを見つめるその目には、ためらいの色が浮かんでいる。部屋に足を踏み入れることが、エミリアの不在を改めて突きつける苦しみになるのを、彼は知っているのだ。 それでも、彼は覚悟を決めるようにゆっくりと頷き、美咲を手招きした。 二人はリビングの奥へ進み、階段を一段ずつ踏みしめる。手すりには埃が厚く積もっており、長い時間の重さを思わせるものがあった。 エミリアがいなくなってから、この家の時間は止まったままなのだ。 美咲はアレックスの背中を見つめながら、胸の奥がざわつくのを感じた。失われた日々の痕跡をこの目で確かめたいという期待と、その扉の先に何が待っているのかという不安が入り混じる。 彼女の足取りは自然と慎重になり、空間に漂う寂しさと重さが心に染み渡っていくかのようだった。 二階の突き当たりにある白いドア── アレックスが鍵を開けると、冷たく静謐な空気が流れ出してきた。そこは、エミリアが生前、音楽に身を委ねていた静謐な部屋だった。 窓際に置かれた譜面台、壁に立てかけられたチェロケース、そして部屋の中央には、彼女が愛用していたヴァイオリンケースが、主の帰りを待つように置かれている。 床には書きかけの楽譜が散乱し、彼女がここで音と格闘していた痕跡が生々しく残っていた。「警察も一度ここを調べたが、何も持ち出さなかった。事件性はないと判断されたからだ」 アレックスは部屋の入り口で立ち止まり、苦しげに目を伏せた。 ここに入ることは、彼にとってエミリアの不在を突きつけられる苦行なのだろう。「入るね……」 美咲は部屋に足を踏み入れた。 かつてこの部屋で、エミリアはどんな思いで楽器を奏でていたのだろう。 華やかな経歴、世界的な名声。しかし、その裏にあったのは、誰にも理解されない「深い孤独」だったとアレックスは言った。「アレックス。あなたが言っていた『手渡したもの』の手がかりが、ここにあるかもしれないわ」 美咲は散らばった楽譜を一枚ずつ拾い上げた。 モーツァルト、バッハ、ドビュッシー……。どれも難解な曲ばかりだ。書き込みがびっしりとされ、彼女の苦悩が滲んでいる。 だが、これらは「演奏家」としての記録であり、石場へと繋がる個人的なメッセージではない

  • 失われた二つの旋律   矛盾するピース

    「プロファイリングが合わない……」 リサはハンドルを握る手に力を込めた。 北関東からの帰路、車窓を流れる景色は色を失い、ただの灰色の帯となって後ろへ飛び去っていく。 妹・由美子の証言は衝撃的だった。石場和弘の中に「怪物」がいる。それは確かなのだろう。 だが、リサの脳裏には、どうしても拭いきれない違和感がへばりついていた。 元上司の宅間や同僚たちは、石場をこう評していた。『要領が悪く、仕事ができない』『感情的で衝動的』だと。 由美子もまた、兄は社会に適応できず、感情の抑制が効かない子供のような存在だったと語っていた。 つまり、石場和弘という人間の本質は「不器用」で「衝動的」なのだ。 だが、エミリアの失踪はどうだ。 目撃者は皆無に等しく、遺体はおろか、遺留品ひとつ見つかっていない。 警察の捜査網すら掻い潜る、あまりにも「完璧」すぎる隠蔽工作── たとえ彼の中に『冷酷な別人格』がいたとしても…… 石場の中に「冷酷な別人格」がいる可能性は確かにある。しかし、その別人格が存在したとして、「殺人を犯した」というのは、推測の域を出ないはずだ。 リサは自問した。 人格が変わっただけで、突然、これほど緻密な計算と実行力が身につくものだろうか? 車も持たず、地縁も薄い彼が、たった一人で遺体を運び出し、痕跡を消し去ることが可能なのか? 魔法使いでもない限り、物理的な限界があるはずだ。 実行犯は本当に石場なのか? あるいは──石場和弘という男は、誰かが描いた巨大な絵図の中で、罪を被せられようとしているだけの「好都合な存在」に過ぎないのではないか? だとすれば、彼を「怪物」に仕立て上げ、その影で笑っている真犯人が別にいることになる。「もっと大きな力が働いているのかもしれない……」 リサはアクセルを踏み込んだ。スピードメーターの針が跳ね上がる。 この違和感の正体を突き止めるには、やはり「両親」に会うしかない。 彼らが何を隠し、何から逃げているのか。そこに、石場の「能力」を超える何かが隠されているはずだ。

  • 失われた二つの旋律   偏見の向こう側 ②

    「石場に追いかけられて石場を倉庫で見た時、同じ目だと思った。理屈や証拠じゃないの。私の本能が、細胞全部が『あいつは同じ種類の怪物だ』って警鐘を鳴らした。……だから私は、エミリアが私と似た苦しみに直面したんじゃないかって、どうしてもエミリアと自分を重ねてしまうのよ。私が助からなかったかもしれない未来を、エミリアが私の代わりに生きているんじゃないかって……」 美咲の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。 それは恐怖の涙であり、過去に自分を守ってくれなかった世界への、消えることのない怒りの涙でもあった。「そうか……。君はエミリアを自分のことのように思えていたんだね。すまない、そんな辛い過去があったとは知らなかった」 アレックスは立ち上がり、沈痛な面持ちで美咲に近づいた。 彼女の「過剰な反応」の正体が、単なる臆病さではなく、生き残るための必死の防衛本能だったことを知り、彼は自分を恥じたようだった。 アレックスは、しばらく躊躇った後、意を決したように口を開いた。「君の直感は鋭いのかもしれない」「え?」「実は……エミリアも、石場のことを気にしていたんだ」 美咲は顔を上げた。「どういうこと?」「だけど、怖がっていたわけじゃない。むしろ逆だ。エミリアは言っていた。『あの人の音の聴き方は、特別だ』と」「特別?」「ああ。彼はいつも、演奏の『技術』ではなく、その奥にある『感情』……特に悲しみや喪失感に共鳴していた。エミリアは、彼の中に自分と同じような『深い孤独』を感じ取っていたんだよ」 アレックスは振り返って、美咲に思いがけない事実を告げた。「失踪する前日、石場がエミリアに話しかけた時のことだ。僕は少し離れた場所にいたが、エミリアが彼に何かを手渡しているのを見た」「手渡した? エミリアが……?」「ああ。小さな、紙切れのようなものだった。楽譜の切れ端か、メモか……。あの当時は単なるお礼のメッセージでも書いてあるのだろうと思ったが、エミリアは彼に何かを託したのかもしれないな。……だとすれば、石場はエミリアの敵ではなく、彼女が最後に信頼した人物だった可能性もある」 美咲は言葉を失い、息を呑んだ。視線が宙をさまよい、唇が開きかけては閉じ、言葉にならない思考が胸の奥で渦を巻く。 石場はストーカーではなかったのか? エミリアが彼に何かを託した? リサが石場の妹

  • 失われた二つの旋律   偏見の向こう側 ①

     美咲は再び、アレックスの住む洋館の前に立っていた。 以前ここを訪れた時は、彼を慰めたいという一心だった。だが今は違う。 美咲は重厚な門扉を押し開け、手入れの行き届いた庭へと足を踏み入れた。 アレックスの住む洋館は、静寂に包まれていた。かつてはここから、エミリアとアレックスが奏でる二重奏が聞こえてきたものだが、今はただ、重苦しい沈黙が支配している。 美咲は玄関の前で立ち止まり、深呼吸をしてから呼び鈴を鳴らした。 しばらくして、扉が開く。 前回より、随分と出てくるのが遅い。「……美咲? どうしたんだい、こんな時間に」 現れたアレックスは、以前会った時よりもさらに痩せ、目の下の隈が濃くなっているように見えた。「ごめんなさい、アレックス。どうしても確認したいことがあって」 美咲は玄関先で立ち止まったまま、単刀直入に切り出した。「石場和弘という男のこと。……私に嘘をつかないで答えてほしいの」 アレックスの眉がピクリと動く。「石場……? ああ、あのカフェの常連客のこと? 以前も言った通りだ。エミリアに一度だけ話しかけたことがある。それだけだよ」「本当にそれだけ?」 美咲は畳みかけた。「あの日、山で私が目撃した不審な男。あれは石場だった。あなたは、あの日以前から、石場がエミリアに執着していたことを知っていたんじゃないの? 毎日カフェで演奏していたあなたが、常連客の視線に気づかないはずがないわ」 アレックスは深くため息をつき、諦めたようにドアを大きく開けた。 リビングに通された美咲は、座ることもせず、立ったまま彼を見下ろした。「……美咲。君はどうして、そこまで彼を疑うんだい? 警察でさえ、彼を容疑者リストには入れていない。ただの少し変わった男だ。それなのに君は、まるで彼が悪魔であるかのように怯え、そして攻撃しようとしている」 アレックスの痛いところを突く問いかけに、美咲は言葉を詰まらせた。 言いたくない。思い出したくもない。 私の心に古傷に触れるもの…… けれど、この震えの理由を言葉にしなければ、アレックスには届かない。「……似ているのよ」 美咲は喉の奥から声を絞り出した。「昔、私がまだ大学生だった頃……ある男につきまとわれたことがあるの。最初は、通学路ですれ違うだけの他人だった。でも、ある日から視線を感じるようになった。視線

  • 失われた二つの旋律   覚醒の呼び鈴 ②

     美咲は、通話の切れたスマートフォンを耳から離し、静まり返った部屋を見渡した。 カーテンは閉め切られ、昼間だというのに薄暗い。 リサの言葉が耳の奥で反響している。『怪物』『別人格』『排除すべき障害』── まだ恐怖はぬぐいきれていない。 だが、数日前にリサに怒りをぶつけたあの瞬間から、美咲の中の何かが確実に変わっていた。 それまで美咲を支配していたのは、石場への「恐怖」と、何もできない自分への「無力感」だった。しかし、リサへの反発として吐き出した「怒り」は、彼女の心に久しぶりに強いエネルギーを送り込んだのだ。 怒ることができるということは、心が死んでいない証拠だ。まだ立ち向かう気力が残っている。「私しかいないでしょう」 リサの最後の言葉が、美咲の胸に残っていた小さな残り火に油を注いだ。 この調査を始めたのは私だ。リサを巻き込んだのも私だ。それなのに、恐怖に負けて彼女を拒絶し、私は安全な場所に隠れている。本当にリサ一人に任せるつもりなのか?「……違う」 美咲は小さく呟いた。 指先はまだ震えている。 その震えが、ふと美咲の脳裏に苦い記憶を呼び起こした。 かつて、理不尽な悪意に晒され、部屋の隅でただ膝を抱えて震えていた、あの忌まわしい日々の記憶だ。 今の震えは、あの時とは違う。 私はもう、あの頃の無力な学生じゃない。ただ怯えて逃げることしかできなかった過去の自分とは違うのだ。 あの時の絶望を、もう二度と繰り返したくはない。 石場に追われたあの夜、私は確かに死ぬほどの恐怖を感じた。けれど、その恐怖より強く感じたのは「違和感」の方だった。 あの時の石場の目は、山で見かけた時の、あの怯えるような目ではなかった。 リサが言うように彼の中に「別人格」がいるとするなら、私がかつて噂で聞いていた「石場」──不器用で、仕事ができなくて、誰からも相手にされていなかったあの冴えない男は、今どこにいるのか? 美咲は立ち上がった。 震える足に力を込め、閉ざしていたカーテンを勢いよく開け放つ。 午後の強い日差しが、澱んだ部屋の空気を切り裂いた。「リサは両親の元へ行った。なら、私は……」 美咲の視線が、机の上に置かれた一枚の写真に止まる。 それは、リサに見せた「エミリアと石場が話している写真」だ。そしてその横には、アレックスと一緒に写るエミリアの笑

  • 失われた二つの旋律   覚醒の呼び鈴 ①

     リサはレンタカーの運転席に滑り込み、ドアを閉めた。 車内という密室に静寂が戻ると同時に、先ほどの由美子との会話、そして数日前の美咲との言い争いが、交互に脳裏をよぎる。『病的な防衛本能ね……。ねえ、リサ。それを私に話して、どうしたいの? 「だから許すべきだ」とでも言いたいの?』 美咲の言葉は切実で、リサの胸に深く刺さったままだった。 一方的に通話を切られたあの日から、連絡を取り合っていない。今、電話をかけたところで、美咲は出てくれるのだろうか。いや、むしろ波風をさらに立てるだけではないか── リサはスマートフォンの画面を見つめ、一瞬、躊躇した。 だが、迷っている時間はない。 由美子の証言が事実だとすれば、石場の中には制御不能な「何か」が潜んでいることになる。それが動き出す可能性がゼロではない以上、美咲の命は感情的な行き違いよりも遥かに重い天秤に乗せられているのだ。 万が一があってからでは遅い。嫌われてもいい。警告だけは伝えなければ…… リサはダッシュボードにスマートフォンを固定し、ハンズフリー通話のボタンをタップした。 呼び出し音がスピーカーから無機質に響く。 リサは祈るようにハンドルを握りしめた。「……はい」 数コールの後、美咲の声が車内に流れた。 その声は硬く、まだ怒りの余韻を含んでいるようにも聞こえたが、着信拒否をされなかったことにリサは安堵した。「美咲……。喧嘩の直後にごめんなさい。でも、どうしても伝えなきゃいけない緊急事態なの」「緊急事態……?」「妹さんに会えたわ。そして、無視できない証言を得た」 リサはエンジンを始動させながら、しかし車は発進させずに早口で告げた。「時間がないから結論だけ言うわ。あなたの直感は当たっていたかもしれない。石場和弘の中には、彼自身も制御できない『別人格』が潜んでいる可能性がある。それも、極めて攻撃的な人格が」 スピーカーの向こうで、美咲が息を呑む気配がした。「妹さんは、それを『怪物』と呼んでいたわ。幼少期、兄の死に関わっている疑いもある。……いい、美咲。まだ推測の域は出ないけれど、これはもう、単なるストーカーや失踪事件という枠で捉えるべきじゃない。もしその人格が過去の清算のために動き出しているとしたら、次はおそらく両親が狙われる。でも、あなたもターゲットになる可能性は捨てきれない」「

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